私の整体師としての哲学：二宮進と野口晴哉からの教訓　│長岡京市の自律神経整体院

めまいは胸椎１０番、動悸は胸椎４番という具合に、具体的に悪い部分をあげて説明する事は難しくありません。しかし、そのような説明だけをしていると、私はお尻や背中がむずがゆくなってきます。なんとなく嘘をいってしまっているという気持ちが浮かび上がってくるのです。

 

しかし、別に嘘をいっている訳ではありません。

ちゃんと説明ができていないような気がするのです。整体の師である二宮進は、

 

「説明は常にシンプルでなくてはいけない。」

 

という考えを貫いていました。

だから、細部に至る細かい説明など一切ありませんでした。このような考え方は、多くの人が理解しやすいようでセミナーは常に１００人を越える人がいましたし、大きな勉強会に至っては１０００人を越える規模で開催されていました。

 

一方、その師である野口晴哉は、もっと根本的な部分の説明をしていたようです。

人間の体とはどのようなものか、健康であるとはどういう事か、そういう根本的な部分を理解すれば整体を理解できるという考えだったのではないかと思います。もちろん知識だけではなく、身体感覚の向上にも取り組んでいて精力的に整体師の育成に取り組んでいたようです。

 

そうはいっても、私自身は野口晴哉師には実際に会った事はありません。だから、話で聞くのとその著書でどういう人だったかを考えてみるという程度の理解でしかありません。

 

野口師の時代だと、

 

「見て、体で感じて、そして理解しろ。」

 

という事でうまく伝わったのではないでしょうか。

ある程度の人数が集まって合掌行儀という気の扱いの鍛錬をしている様子をみたら、多くの人はオカルト的ななにかの儀式をやっているように感じるのではないでしょうか。しかし、このような鍛錬は自身の身体感覚を高めることで体のどこに不調があるかを見極めるためには重要なものです。

 

おそらくこの時代の人々は、今の私たちより高い感度の体をもっていたと思うのです。

言い方を変えると、私たちより、人間として、野性的、自然的な側面をまだまだ十分にもっていたのではないかと思うのです。関東大震災や大戦を経験した人たちですから、生きるという事の意味を私たちより遙かに高い次元で理解できていたのでしょう。

 

それにたいして二宮師の教えは単純明快です。

 

「この部分に気を通せばこの病気はよくなる。」

 

たった、これだけで他の説明はなんにもありません。「１＋１＝２」ですというように、算数の公式を説明するような話ばかりでした。私は、それがなぜなのかについてもっと詳しく説明を聞きたいといつも考えていました。晩年、直接にやりとりをする機会があって、自分の考えをレポートにまとめて目を通してもらっていたのですが、

 

「君は将来、立派な整体師になりそうだ。」

 

という感想をいってもらい、今の私の大きな糧になっているように思います。

 

私なりの整体に対する解釈が誤っていなかったのだと安堵したのと、二宮師はやはりあえて細かい説明をしないようにしていたのだという事を確認しました。そして、それと同時期だったか、その後だったか、二宮師の生い立ちの話を聞いて、どうして簡単な説明しかしないのかをなんとなく理解できたような気がしたものです。

 

今の時代の人たちは－私も当然この世代ですが－科学がすべてを明らかにすると考えています。

例えば、遺伝子操作をして病気を治療したり、人間の老いや寿命をなくしたりするという話を聞いてもそれに疑問を持たないのではないでしょうか。おそらく、科学は進歩すればすべての事を明らかにするから、それぐらいの事はできるようになるという事に違和感を感じないのでしょう。実際、

 

「２０５０年には人間を不死の存在にできる。」

 

と主張して投資家から資金を集めている人が現実にいるぐらいですからね。

 

それでそういう時代であれば、二宮師のような単純明快さが求められたという事なのでしょう。そして、今はさらなる単純明快さが求められているような気がしますね。

 

かくいう私はどうかというと、たぶん、ちょっと野口師に寄っているかなと自覚をしています。

野口晴哉師は私のような凡人からは計り知れないような才能をもっていたように思えるので、私が野口師に寄っているというのはちょっとおこがましいのですが・・・。

 

ただ、今の世の中は科学を盲信しすぎているとは思いますね。

これまでのところ科学の進歩は私たちの幸福に直結していた訳ですが、それがこれからも続くという保証はありません。例えば、人間が死や老いを克服したらその存在は人間ではない、つまりホモサピエンスではない生物に変わっている事になるはずですが、それが実現したときに世界がどのように変わるのかという事について議論どころか、一切の声すら聞こえてきません。下手をすれば人類が滅ぶ可能性もあるわけですが・・・。

 

ただ、これは話が大きくそれるのでまた別の機会にまとめようと思います。